今月の税務情報は、「転籍者に対する給与等」についてご案内します。
■ 転籍者に対する給与
転籍が行われた場合には、転籍前の法人との雇用契約が終了しているため、転籍者に対する給与については、全額を転籍後の法人が負担すべきものです。
したがって、出向の場合とは異なり、転籍前の法人が給与条件の較差補てん金を転籍者に支払った場合には、その支出した金額は給与としての性質を有しないことになります。
このため、特別の事情がない限り、その支出した金額は、転籍後の法人に村する寄附金になると考えられます。
■ 転籍者に対する退職金
転籍者に対して支給する退職金についても、出向の場合とは異なり、転籍前の法人を退職しているため、考え方としては、その時点で転籍前の法人から退職金が支給され、転籍後の法人においては、新たに勤続年数がカウントされることになります。
しかしながら、退職金制度は勤続年数が長くなるほど逓増する構造となっていることが多いため、個別に計算するよりも両社の勤続年数を通算して計算する方が、支給額がかなり多くなるのが一般的でしょう。
転籍については、出向よりも労働法上の制約が大きく、労働者の個別の同意を要することになります。転籍をスムーズに行うために、退職金については転籍前の法人と転籍後の法人の勤続年数を通算して計算し、支給することとしている例も見受けられます。
■ 税務上の取り扱い
これらの実態を踏まえて、税務上も、転籍前の法人及び転籍後の法人が、その転籍者に対して支給した退職給与の額については、その負担が合理的に区分されている場合には、それぞれの法人における退職給与とすることとされています。
実務的には、その負担が合理的に区分されていることを明らかにするため、転籍前の法人と転籍後の法人との間で、それぞれの在籍期間に応じて、退職金を負担する等の内容を記載した契約書(協定書)等を締結し、それに基づいてそれぞれの法人が、在職分の退職金を支払うことが望ましいでしょう。
なお、転籍前の法人及び転籍後の法人が、それぞれの転籍者に対して退職金を支給する場合だけでなく、転籍前の法人が転籍後の法人に退職給与負担金を支出し、転籍後の法人を経て支給した場合も同様に取り扱われます。
そして、その場合には、転籍前の法人は、退職給与負担金を支出した日の属する事業年度の損金の額に算入することができることになります。
■ 寄附金とされる場合
転籍前の法人及び転籍後の法人が支給した退職給与の額のうちに、これらの法人の他の使用人に対する退職給与の支給状況、それぞれの法人における在職期間等からみて、明らかに相手方である法人の支給すべき退職給与の額の全部又は一部を負担したと認められるものがあるときは、その負担したと認められる部分の金額は、相手方である法人への寄附金とされるため、注意する必要があります。